レースコラム

2サイクル車 水温管理

2サイクル車の水温管理

なぜ水温管理が大切か?

「2サイクルエンジンのパワーを引き出す」つまり「シリンダー内のガソリンを完全燃焼させてやる」ということは、熱エネルギーを回転力というエネルギーに変換してやること。
でも、生じた熱エネルギーの100%全てをエンジンパワーとしては取り出せません。それでは、取り出せなかった残りの熱エネルギーはどうなるのか?そう、殆どがエンジン本体に熱として残ってしまうんです。

その熱をそのままにしておくと、どうなるか?
オイルが異常な高温になると、粘度が失われてサラサラになる。 潤滑性が悪くなり、摩擦抵抗が大きくなり摩擦熱を発生する。異常なまでの熱は各部の歪みや変形を引き起こす。異常燃焼(デトネーション)をひき起こして、ひどいときにはピストンに穴があいてしまう原因にもなる。
こんなに様々な影響があるんです。だからこそ、冷却してやる必要があるのです。

現在、ミニバイクレースに使用されている車両には、市販時には水温計はついていません。でも、ミニバイクレースに参加するならば水温計はぜひ装着しましょう。
「なぜか?」それについて今回はお勉強。

水温管理でパワーを上げる?

レースでは高回転を常用するため、発熱量も大きくなる。ましてやチャンバーを付けると高回転型のエンジンになるから、なおさら。2サイクル50ccミニバイクでは適正な水温は55℃~65℃付近。これから大きく外れると、所定の性能は出せません。もともと、エンジン各部はある程度の熱膨張によってベストなクリアランスがとれるように設計されている。異常にエンジンの温度が上昇すれば、ベストなクリアランスが保てなくなる。つまり、本来のパワーを得られなくなります。

一般的には、水温が高すぎると立ち上がりトルクが減る、低すぎると最高速が伸びないという傾向。「後半、熱ダレしちゃってさー、全然ストレート伸びなかったよ~」と言われたりするのは、いつもと同じ回転数でシフトアップした際、水温が高くなったことにより「トルク感が減少し、加速が悪くなった」とライダーが体感したために出た言葉と考えられますね。
全く同じ仕様のエンジンで水温が違う状態でパワーチェックした場合、「水温によってこんなにパワー特性が違うのか!」と明らかな違いが性能曲線に記録されています。

今、自分が使用している車両が水温を管理するだけで、本来のパワーがきちんと出るならば、こんなにいい話はないですよね。ましてやエンジントラブルの予防のためにも水温管理をすることは一石二鳥というものです。

水温管理の基本のき

まず、水温は走行中に必ずチェックしましょう。
冷却水はラジエターのフィンの間を走行風が通りぬける事で冷やされています。だから、ピットインしてから水温を見ても走行中の水温より上昇しているのは当たり前。後で述べるガムテープによる調整も貼ったら走ってみて調整しましょう。停車している状態でラジエターにガムテープをはっても、その場で水温が上がるわけではないので勘違いしないように!
また、雨の日は雨水によっても冷やされるので、晴れの日よりも水温は下がり気味になることも頭に入れておきましょ!

水温調整の方法

  1.  冷却効率を上げる為に冷却水の流れの抵抗になるサーモスタットは取り外しましょう。
    TZM50Rはシリンダーヘッド横にフタがついているのでそれを開けてサーモスタットを丸ごと取り外す。NSR50はシリンダーヘッドの大きなナット状のフタを外して同様に。この改造は全国殆どのミニバイクレースの車両規則でも認められています。リンクスの規則でもOKです。
    但し、きちんと暖気をする等、水温管理を行いましょう。
  2.  水温が低すぎる、つまり走行風が当たりすぎている場合
    ラジエターにガムテープを貼って過冷却を防ぐ。その場合気を付けて欲しいのは「ラジエターの下側からガムテープを貼っていく」ということ。上側から貼っていくと、温度変化が大きすぎるからなんです。
  3. 水温が高すぎる場合
    •   冷却水を選ぶ
      クーラントの代わりに水道水を使用するのは凍結防止剤等の不純物が入っていない分、冷却効率が良いという考えから。そういう意味では、不純物混入の可能性が高い地下水や硬水(マグネシウムや石灰質が比較的多く解けている水、ミネラルウォーターは要注意)は避けたほうが良いです。路面にクーラントがこぼれると乾きにくいため、コースによっては真水限定の所があるので注意しましょう。
      また、水温を下げる効果を唄った冷却水(SQクールなど)も販売されています。
    •   前面からの風をラジエターに集中させる工夫をする
      例えば、ラジエターシュラウド(POSHなど)を取り付ける。 つまりラジエター上部とアッパーカウルとのすきま、ラジエター前面左右部とカウルのすきまを埋めて、走行風の吹き抜けを防止してあげる。

とはいえ、日頃のメンテナンスから

ここまで、水温管理の大切さ、水温管理のハウツーを出来るだけ易しく解説しました。水温計をつけていない方は、 水温計を装着する気になったかな?

まとめとして

ここで挙げた水温管理のハウツーは、日常のメンテナンスをした上でのこと。
例えばラジエターに小石や泥、虫の死骸がはさまっていたりしたら、まずそちらを清掃しましょう。その際、高圧洗浄機を使うと逆に水圧でフィンをつぶしてしまうこともあるので要注意。また、つぶれているフィンはドライバー等で丁寧に起こしてあげましょう。

サーキットでよく見かけるのは、アッパーカウルの取り付けステー自体が下がってしまい、走行風があたりにくくなっているケース。長年使用している君のマシンは大丈夫?それから、冷却水に真水を使用している場合は、言うまでもなく毎回必ず水を抜く事。そうしないと、水アカやさびがトラブルの原因になりますよ。

日頃のちょっとした気遣いが、マシン本来のパワーを引き出す事につながります。

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